アクティブラーニングで実験科目の教育を変える

実験科目において、自主的に学ぶためにはどのようにしたらいいのかをアクティブラーニングを使った授業の記録

食品の有機酸について ピア・レビュー方式で学習する 方法編

前半はジクソー法を利用して理解を深めることを行ってきましたが、後半はピア・レビュー方式を採用しました。
食品の有機酸はその食品の特性を鑑み、法律でその数値が定められています。なぜそのように定められているのか。それを食品製造加工から順に調べることにより、法律で定められている数値の意義や食品の特性を学ぶことを目的としました。
1.次の課題について各自が調べてくる
(1)食用酢の作り方と穀物酢の酸度の基準(実験で使用したのが穀物酢のため)
(2)ヨーグルトの作り方とおおよその酸度の基準(法的規制ではなくメーカーが独自に製品基準として設定)
(3)牛乳の酸度の基準と牛乳が腐敗したらどうなるか
2.調べた結果をもとに班でディスカッションする
3.ディスカッションした上での自分の最終意見
4.自分の意見が班の他の人と違った場合、自分の意見の説得力を自己評価
5.班の他の人の話を聞いて自分の意見が変わったか
6.班の他の人のコメントで興味深かったもの
まずは、各自で与えられた課題について調べ、それをもとにディスカッションしました。

りんごの褐変反応をジクソー法で理解する  自己評価ルーブリックによる振り返り

レポート作成が終わったので、自己評価ルーブリックに従い、振り返りを行いました。
自己評価の内容 観点:食品の色素 酵素反応による食品の褐変
レベル1:酵素反応によって褐変を起こす食品を数種類いえない
レベル2:酵素反応によって褐変を起こす食品を数種類いえる
レベル3:酵素反応による食品の褐変について説明できる
レベル4:酵素反応による食品の褐変防止方法について説明できる
自己評価は、今までと同様、
予習動画&課題取り組み前
予習動画&課題取り組み後
レポート作成後
の3段階にわけて自己評価してもらいました。

その結果は
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以上のように、60%以上の学生が食品の酵素による褐変反応について説明できるレベルになりました。

理解が促進されていない原因はどこに?
ただ、常に1割程度の学生がレポート作成した後でもレベル1のままの状態であり、これは常に同じ人なのか?なぜ学習により理解度が上がらなかったのかを現在調査中です。

りんごの褐変反応をジクソー法で理解する  クロストーク

 

クロストークの結果は!
クロストークの結果をまとめると次の通りでした。

食塩を加えたら褐変しないのは、ナトリウムイオンがポリフェノールの周りに壁をつくり、ポリフェノールオキシダーゼの働きを抑えるから。塩化物イオンはポリフェノールオキシダーゼの活性を阻害するから
アスコルビン酸が優先的にポリフェノールオキシダーゼと反応するので褐変しない

 →これらについてはGOOD!

 

一方、温度については次のような回答でした

温度が高いと反応が起こり、37℃より低いと反応が生じない< ポリフェノールオキシダーゼは60-70℃で失活するため加熱すると反応しない

 

→実験結果や調べたことから導きだしてきているのは理解できるが、「酵素」を化学的ににとらえて表現するという点では不十分。

調理学の側面と生化学の側面、両方から思考する
実験ではりんごを例にして食品の酵素褐変について実験しました。この酵素的褐変は他の食品でも起きる反応です。では、実際の調理の場面ではどのような処理をすればいいのか。レポート作成においては、まず調理学の側面から考察する必要があります。さらに、酵素についてさらに理解を深める必要があるため、生化学の側面から考察する必要があります。温度についての表現が適切でなかった要因としては、酵素についての理解が足りない、それぞれの言葉の意味を理解していないことが散見されました(エキスパート活動やクロストークでの会話を聞いていて)
科目間の知識がつながっていることを学生が認識できるようにするにはもちろんのこと、この両側面を理解しやすいようにいかに学ばせるかという新たな課題が発見できたので、次年度にむけて方法を構築していきたいです。。

りんごの褐変反応をジクソー法で理解する  エキスパート活動

 

どの班も与えられた条件はすべて実験を行ったので、なぜそうなるのかを班ごとに分担して調べてくることとし、各班でその意見をまとめました。
班の分担は次の通り
・塩化ナトリウムが褐変反応に与える影響とその原理 3&6班
・L-アスコルビン酸が褐変反応に与える影響とその原理 2&5班

・温度が褐変反応に与える影響をその原理  1・4・7・8班
(温度に関する項目を調べる班が多いのは難易度が高いため)
そして、班ごとに各自が調べた結果を話しあい、班の意見としてまとめました。

なお、この実験については、どの班も与えられた条件をすべて実験したので、実験結果からなぜそうなったのか疑問に思うことは、のちのクロストークで理解できたかを測るために、各自まとめておくこととしました。

りんごの褐変反応をジクソー法で理解する  方法編

りんごを切って放置しておくと褐色になります。
これは、りんごに含まれているポリフェノールがポリフェノールオキシダーゼによって酸化ポリフェノール(褐色物質)となるためです。
よって褐色にしないためには、この酸化ポリフェノールを生成させないようにしなければなりません。そこで、次の条件で実験を行いました。
A:りんご果汁を室温で30分放置後の色を観察
B:りんご果汁を沸騰浴で40分間加熱後、氷水で急速冷却し30分放置。開始時、沸騰直後、30分放置後の色を観察
C:りんご果汁のみ
D:りんご果汁に塩化ナトリウム水溶液添加
E:りんご果汁にL-アスコルビン酸添加
これらCDEは37℃のウォーターバスにつけ、開始時から10分おきに30分後まで色を観察
実験終了後、班ごとに
・塩化ナトリウムが褐変反応に与える影響とその原理
・L-アスコルビン酸が褐変反応に与える影響とその原理
・温度が褐変反応に与える影響をその原理
それぞれ担当をわけて調べることとした。

メイラード反応実験の内容をジクソー法で理解する 自己評価ルーブリックによる振り返り

レポート作成が終わったので、自己評価ルーブリックに従い、振り返りを行いました。
今回は評価の観点が2項目あります。
自己評価の内容
観点その1:糖質 還元糖と非還元糖
レベル1:還元糖と非還元糖の違いがわからない
レベル2:還元糖、非還元糖に該当する糖がどれかわかる
レベル3:還元糖、非還元糖はわかるがなぜそのように区別されるのかわからない
レベル4:還元糖、非還元糖に属するものが何かわかり、どのように違うか説明できる
そして、
予習動画&予習課題取り組み前
予習動画&予習課題取り組み後
レポート作成後
の3段階にわけて自己評価をしてもらいました。
その結果は、


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このように、90%以上の学生が還元糖と非還元糖の判別ができるようになりました。しかしながら、どのようにそれらが区別されているのかという点については、まだ到達していません。これについては、すでに講義でも学習し教科書や配布プリントに記載されていますが、理解が足りていないようです。他の単元で再度糖に関する実験を行うのでその時に詳しく説明したいと思います。

 

観点その2:食品の色素 メイラード反応
レベル1:メイラード反応を起こす物質が何か説明できない
レベル2:メイラード反応を起こす物質が何か説明できる
レベル3:メイラード反応の原理が説明できる
レベル4:メイラード反応が促進される、あるいは阻害される要因を説明できる

 

そして同様に、
予習動画&予習課題取り組み前
予習動画&予習課題取り組み後
レポート作成後
の3段階にわけて自己評価をしてもらいました。

その結果は、

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予習動画を見る前は、メイラード反応を起こす物質が何かわからない学生が70%もいたにもかかわらず、レポート作成後は12%と激減しました。しかしながら、理解到達という面で考えるといまだ12%との学生が全くわかっていないというのは看過できないので、これは個人的にフォローしていかなければなりません。

 

誰がどこがわかっていないかを具体的に知ることにより、教員側も適切なフォローアップができるし、わからない学生との対話の中で、次年度どのようにすればわかりやすくなるのかを検討してきたいです。

メイラード反応実験の内容をジクソー法で理解する クロストーク

各班でのエキスパート活動によるまとめをした後に、ひとつのグループに各班1名いるようにジグソー班をつくり、クロストークを行いました。ここでは各自(各班)から、結果となぜそうなったのかを発表し、グループ内で質疑応答など自由にディスカッションしました。

そしてクロストークの結果は!
ジクソー班は14グループ全てを通して内容をまとめると次の通りでした。

スクロースは還元性がないから反応しない

pHはアルカリ性に傾くと反応が強くなる

加熱しないと反応しない

 

今回は、反応に影響する要因を予め示唆していたので、エキスパート活動の時からそれにそって調べることができたため、反応を促進する条件、阻害する条件をスムーズに調べることができたようでした。

 

基本的知識という土台に対する問題
すでに講義で糖とは?たんぱく質とは?アミノ酸とは?については、前期で学習しているので、それを理解している前提で実験を行いますが、毎年そこの理解が不十分なために、実験内容そのものの理解できないので、予習課題で複数の物質のうちアミノ酸に該当するものを答えるというものを実施しました。すると案の定、理解できてない学生が目立ったため、実験に入る前に再度説明しました。
しかしながら、クロストークをしている最中の会話や提出されたレポートを見る限り、実験に入る前に説明したにもかかわらず、この基本的知識がおぼつかない学生がわずかとはいえいることがわかりました。
これに対するフォローは行うのは当然のこととして、いかにわかるようにしていくかを考えなおし、方法を構築していきたいです。